スタックスは本来の意味はヴィンテージの茶系デッキの名称で、《かみつく鉄線》を《ゴブリンの溶接工》で使い回し、《三なる宝球》《煙突》で相手に行動させなくするデッキである。
相手が行動できなければ、いつかは自分が勝つ。
EDHで『スタックス』という言葉が使われる場合、相手の行動を制限するカード、もしくはそれらが多数入ったデッキを指すことが多い。
特に定義は無いが、《ドラニスの判事》《敵対工作員》を入れるくらいでは普通はスタックスとは呼ばれない。
《冬の宝珠》《耳の痛い静寂》《迷宮の霊魂》やその類似カードを重ねて置くようなデッキがEDHのスタックスのイメージ。
複数並べて相手を縛ると征服感を味わえるが、致命的な弱点もある。
今日はその話。
ちなみに今回の話では『スタックス』という言葉は、漠然と複数のプレイヤーの行動を阻害もしくは減速させる置物(クリーチャー、エンチャント、アーティファクトなど)の意味で使う。
全ての相手に刺さるとは限らない
二人のプレイヤーに致命的、一人のプレイヤーに影響が少ないと、自然とこの一人がマナも手札も増やして勝ちに近づく。
自分が勝ちに近づくとは限らない。
スタックスを置いた人は、スタックス系のカードを置く分のマナとカード1枚を使うのでテンポロスがあるし、スタックスばかり引くと自身もマナ加速やドローが出来ない。
対戦相手を三人とも減速させるならともかく、効き具合に差が出ると実質的に対戦相手を支援するだけになる恐れもある。
例えば《血染めの月》。
多色デッキが行動不能になるが、単色がウキウキしてしまう。
《血染めの月》を使う場合、ほぼ赤単だろうからアーティファクト主軸になりがちで、ここで緑単から《溜め込み屋のアウフ》を出されると、実質緑単の一人勝ちとなる。最悪。
多人数戦では誰かに刺さらないだけで済まずに、相対的に得をするプレイヤーに逆に利用されるリスクまである。
通常の1対1の対戦では、対戦相手を勝てなくする=いつか自分が勝てる。
しかし多人数戦では、対戦相手一人だけ勝てなくしても、勝つ見込みのあるプレイヤーが一人でもいれば、自分が勝てるとは限らない。
順番の問題
デッキの構造的に効くか効かないかだけでなく、手番の問題もある。
1番手の人がやりたい放題展開した後に、2番手の人がスタックスで蓋をすると3-4番手のプレイヤーが最悪何も出来なくなって、結果的に1番手のプレイヤーの優位が固定化される。
1番手のプレイヤーが既に《ティムナ》や《テヴェシュ》など毎ターンアドを稼ぐカードを出していると更に状況は悪い。
アドを稼ぐ時間をプレゼントしているようなもの。
だからと言ってスタックスを使わないで腐らせるなら、勝手に自分だけアド-1。
更に自分はスタックスがあっても動ける構築にすると、スタックスを置かなければデッキ自体が相手よりも弱い可能性が高い。
例えば《耳の痛い静寂》を使うと、このゲームで最も強い軽量アーティファクトを並べる速攻デッキは組めなくなるわけだし。
順番だけでなく、たまたまマナ加速を重ねて引いた相手のぶん回りも困る。
EDHはカードパワーの差が激しく、引きによるムラが大きい。
基本的にはスタックスは先置き出来ないと弱いので先に展開する相手は苦手だが、対戦相手は三人も居るので誰かは先手を取るか先に展開してしまうよね…
理想的な対戦相手の行動の縛り方
《リスティックの研究》はかつて《抵抗の宝球》に例えられることもあった。
基本的には《リスティックの研究》はマナを支払うのが定石なため。
かつて《リスティックの研究》は全てマナを支払われる前提なら弱いので使わないという過激派もいたが、今ではそのようなことは聞かない。
基本的に青ければ採用するし、抜く場合は《むかつき》に特化して総コストを下げたいなど別の理由。
《リスティックの研究》の強みは事故ったプレイヤーにトドメを刺さないし、対戦相手同士の妨害に制限を掛けない点。
弱い者いじめをするのでは無く、支払う余裕が無い相手に便乗して自分が得をするカード。
即死コンボが飛んできた時に、フルタップのプレイヤーが緊急避難的に《意思の力》を使うことを阻害しない。
融通の利かないスタックスは、止めたくない行動も止めてしまう裏目がある。
《リスティックの研究》に裏目はない。
対戦相手同士の妨害は自分が得をする行動だし、特に即死コンボを抑えてくれる対戦相手は自分への利益が大きい。
これは止めたくない。
経験的に使われる行動制限
スタックスの弱点について話したが、そうは言っても使われるカードもある。
その代表はアーティファクト対策で、特に《溜め込み屋のアウフ》。
EDHは《魔力の墓所》《波止場の恐喝者》などアーティファクトの暴力的なマナ加速を使うことが前提だが、緑だけは話が別。
少しスピードは遅いが《ティタニアの僧侶》《ガイアの揺籃の地》などアーティファクト以外の加速が豊富で、縛ると一方的なゲームが出来る。
緑には豊富なクリーチャーサーチが有り、《溜め込み屋のアウフ》は使いたい時にいつでも使えるという利点も大きい。
また《溜め込み屋のアウフ》がいても、青系デッキの各種カウンターは0-1マナ域が豊富で使えることが多いので、即死コンボにノーガードにならない点もよい。
緑は弱いからこそ、対戦相手三人は基本的にはアーティファクト主体で、3人抜き出来る可能性が高いという隠されたメリットもある。
また《ドラニスの判事》《ダウスィーの虚空歩き》《敵対工作員》などの自分に被害の無いカードはよく使われる(これをスタックスと呼ぶかは別として)。
ただ上記のスタックスの例と同じように、対戦相手の展開具合や順番によって効果の薄いタイミングがあることは事実で、直接自分の勝利に貢献しないこと、相手の妨害を吸い取って相対的に損をする可能性があることから《敵対工作員》などは自分はあまり好きでは無い。
まとめ
スタックスは特定の誰かに劇的に刺さって、何だかすごく“効いてる”感じがする。
でも逆に相手に利用されて負け筋になることもある。
スタックスの真の弱点は、誰かに効いて有効牌だと錯覚する点だと思う。
その結果、本当に勝ってる?
マナ加速かドローしてた方が強くない?
多人数戦では誰か一人をいじめ抜くのは弱い行動だと思うし、勝つためのアクションではないので、やり過ぎは厳禁。
たまたまスタックスが刺さって勝った成功体験は印象に残るだろうが、本当に勝ちに貢献しているかは良く考える必要がある。
緑単の《溜め込み屋のアウフ》くらい様々な要素に噛み合ったカードだと強いけどね。
だからタイトルのように『自分のデッキが遅いから相手を減速させるためにスタックスを使う』くらいの理由で採用すると、必ずしも噛み合いの良い運用が出来るとは限らず弱い。
じゃあ、遅いデッキはどうするのか?
対戦相手同士の妨害を邪魔しないようにするのです…
ということで今回はコレで終わり。
ではまた。
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