EDHが競技的であるためにキングメイキング問題は解決可能か

多人数戦でしばしば登場するキングメイキング問題(キングメーカーとも言われる)。

これは一般的には3人以上が戦うゲームで、勝ち目の無いプレイヤーの行動により他のプレイヤーの勝敗を左右してしまうことと言わる。

例えば、このような状況。

EDHは通常4人対戦だが、分かりやすく3人対戦を考える。

現在は自分のターンで、アタックして誰か一人だけ倒すことが出来る。

パワー4のクリーチャーを2体コントロールしていて、対戦相手は二人ともライフが8という状況。

対戦相手A、対戦相手B共に即死コンボを揃えていることが分かっており(サーチカードで公開しているなど)、自分も対戦相手もそれらを阻止できる手段が無いことも判明していると仮定する。

攻撃して一人を倒すと、残ったもう一人がゲームの勝者となる。

攻撃しないで誰も倒さないと、ターンの早い対戦相手が勝者となる。

この場合、自分は1位になることは出来ないものの、自分の選択で勝者を決めてしまう。

ここで誰か一人を優先的に勝たせてしまうことをキングメイキングと言う。

“何もしない”すなわち攻撃しない選択も勝者を決定づける行為である。

ワイワイカジュアルプレイでは、今までの妨害された恨み!とか、今日はこっちの気分!で勝者を決めれば良いが、大会だと事情は異なる。

なぜならば、これが決勝卓だった場合に勝利の目が無い自分の行動で優勝者を決めて(あげく賞品の差が出て)しまうのに、正解の行動は無いからである。

多人数戦の大会でこのような勝者を決定づける状況に対して『キングメイキングは禁止』とされることとあるが、その厳密な定義まで触れられていない。

というか、上記のように完全に二者択一になった時に客観的な指針を立てられるのか?

ここで例えば『ゲーム内で自分の勝ちの目が無くなる行動を起こした対戦相手を敗北させることは合理的』というルールを追加しても、対戦相手A、対戦相手Bともに自分に除去や打ち消し呪文を使っていたら、結局どちらを敗北させることが妥当か決められない。

実戦では状況はもっと複雑で、不確定要素が混ざるから尚更判断に困る。

勝てる見込みがわずかでもある場合は?

1%でも勝てる可能性があるなら、結果的に自分ではない誰かを勝者にしてしまっても、キングメイキングとは言われないことが多いし、その行動は肯定されるべき。

上記の例で言えば、対戦相手A、対戦相手Bとも即死コンボを持っているが、何枚か妨害カードを持っていてる場合。

互いに潰し合って即死コンボが失敗する可能性にかけて、ターンを終了する。

これは十分妥当な選択肢だと思う。

注意点としては、ここで対戦相手二人のライフを半分ずつ削って、次のターンに殴り勝てるようにすると、少しややこしいことになるかもしれない。

例えば、自分は攻撃して対戦相手Aと対戦相手Bのライフを半分ずつ削ってエンド。

対戦相手Aがコンボを仕掛けて、対戦相手Bが阻止。

対戦相手Bがコンボを仕掛けたところで問題となる。

対戦相手A目線となると、対戦相手Bのコンボを通すとそのまま負ける。

コンボを阻止すると、“自分”にアタックされて負ける。

ここで新たなキングメイキング問題が発生する。

対戦相手Aから『次のターンに対戦相手Bだけアタックして倒すならコンボを阻止する。僕にもアタックするならコンボを通してBを勝たせるよ』と提案を受けたら?

自分が勝つためにはこの提案を受け入れるしかなさそうだ。

しかし約束を守る義理はないし、1%でも勝率を上げる方法は、対戦相手Aの提案を受け入れるフリをして、自分のターンになったら全員殴り倒すこと。

つまり、“人を騙すこと”が正解?

とはいえMTGは見えない手札を持つ駆け引きのゲームなので、常に真実ばかり話していたら(それこそ自分の手札のカードを嘘偽り無く公開していたら)、ゲームにならないだろう。

ゲーム的には騙されても仕方が無い。

遺恨を残すことになるだろうが。

キングメイキング問題はゲーム開始時から始まっている

即死コンボや殴って勝てる終局でなくても、ゲーム開始時点から、対戦相手への干渉は多かれ少なかれ勝者を決めている。

ゲームが終わる、まさにその盤面の行動のみキングメイキングと糾弾されるべきだろうか?

多人数戦において対戦相手一人だけに損害を与える行動は、長い視点で見たときに勝利に影響している。

長いゲームは思考実験で限界があるが、終局ではなさそうな場面でゲームを左右してしまう例として、このようなゲーム展開を考える。

ゲームの開始時、自分は《精神的つまづき》を持っている時を考える。

1ターン目に対戦相手Aが《神秘的負荷》を使ったのでカウンターした。

続く対戦相手Bが《暗黒の儀式》《魔力の櫃》から《むかつき》を唱えゲームを終わらせた。

Oh…

実戦で稀にあるやつ。

結果的には《神秘的負荷》を打ち消すことは間違いであった。

対戦相手Aから猛烈な非難を受けても仕方が無い。

しかし《精神的つまづき》を唱える時点で間違いに気付けるか?

残念ながら、この時点では確定で死ぬかどうかは分からない。

一方で、このEDHというゲームはいつでも即死する可能性があるゲームであり、最上位卓で『《むかつき》は想定していなかった』なんて戯れ言は許されない。甘え。

1ターン目は確率が低いが、2ターン目になると十分考慮されるくらいの確率で発生する。

では、仮に《むかつき》を打たれることが分かっていたら、どうか?

対戦相手Aの《神秘的負荷》を通し、対戦相手Bの《暗黒の儀式》を打ち消すことが、1%でも勝率を上げる行動か?

残念ながら分からない。

なぜならば対戦相手Aが妨害を持っているかも知れないし、対戦相手Bの《むかつき》が失敗して対戦相手Bは自滅するかも知れないが、これらは公開情報ではない。

手札は聞けば分かるかも知れないが、《むかつき》で何が捲れるか分からない。

デッキリストが公開されているならば、あらゆるパターンを計算し尽くせば確率的な答えが出るかも知れないが現実的ではない。

このように不確定要素もしくは計算できないので実質的に不確定として扱わざるを得ない要因が有る中で、1%でも勝率を上げる行動とは何だろうか?

キングメイキングは解決可能か

結論から言うと、僕はキングメイキング問題は解決できないと思っており、ルール上問題なければどんな行動も許容されなければならないと思う

ゲームを左右する局面は勿論、小さな妨害のやり取りまで言い出すとキリがない。

仮に約束を反故にするなどマナー違反だとしても、ゲームの駆け引き上必要でルール上問題なければ許容すべき

かつて《企業秘密》が使えた時には、もっと露骨にこの問題が発生していた。

二人のプレイヤーが結託すると《企業秘密》は無限ドローカードであり、3マナで即座にゲームが終わる。

EDHが広まるにつれて、賞品があるイベントでも一部のゲームで結託が出現したので、《企業秘密》は禁止となった。

このように行き過ぎた悪徳行為はルールで縛ることが出来る。

しかしグレーゾーンの判断は、どうしても主観に依る。当人のお気持ち案件となる。

EDHの大会が増えてきて、決勝卓が録画され公開されるようになると、このプレイヤーのこの行動はキングメイキング云々と叩く人達も出てくるが、そんなのプレイヤーの好きにやれば良い。

皆が真剣にプレイして、もみくちゃになって、え?俺勝っちゃうの?がEDHというゲーム。

ただプレイヤーは人間なのでお気持ちも完全否定は出来ない。

昨今のEDHの競技的大会ブームは、多人数戦ならではの未解決問題がある上に、ゲームは往々にして外野の名人様の声が大きいため、かえってプレイヤー同士の軋轢を生まないか懸念している。

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