パイオニアEDH(πEDH)は、パイオニアのカードプール、EDHに準拠した禁止リストを用いる、非公式フォーマット。
禁止リストをEDHと同じにすることで、そのままのデッキで通常のEDHに参加することが出来るため、対戦相手がいなくて戦えないマイナーフォーマットの弱点を補っている。
友人に誘われて一つデッキを組んだので、今回はデッキ紹介をしつつπEDH環境についても考察したい。
パイオニアEDH環境の考察はこちらも参照。
デッキリスト

※Moxfieldは上記リストとは異なる可能性あり。
デッキコンセプトと勝ち手段
デッキリストからは分かりにくいと思うが、追加ターン呪文で6-8ターンほど連続で行動して《アトラクサ》で殴り倒すデッキである。
断じてコントロールでは無い。コンボである。
《アトラクサ》を出して1-2ターン後には追加ターンループに入ることが可能。
パイオニアEDHでの勝ち方を考える
パイオニア環境ではサクッと2枚コンボは難しい。
軽量の2枚コンボがない上に、マナ加速もチューターも限定的だし重い。
勝利のプロセスには工夫が必要になるが、これは通常のEDHの戦術でも参考になる面がある。
例えば通常のEDHの青単は、無限コンボが重い上に青のサーチカードが重くて弱いため、むしろ弱いサーチカードやコンボを抜いてマナ加速とパワーカードで押すプランとすることで他のデッキと差別化した。
それが自分のお気に入りデッキの一つ《ジェイコブ・ハーキン》である。
そこでπEDHでも同様に、中途半端なサーチカードならば使わずパワーカードで押したいところだが、問題は対戦相手も同じ戦術をとりがちだということ。
ゲームをひっくり返しうるパワーカードの応酬になると、自分に有利な展開となるかは狙われ具合となるので、相手次第となってしまう。
盤面に脅威を出してターンを返したときに集中攻撃されるリスクもあり、勝てないけど強い中途半端なパワーカードは使わない方が良い。
相手にパワーカードを使われないように、あまり目立たないところから一気に勝ちに行くコンボを決めたい。
色々と考えた結果、追加ターンを連打することが有効と考えた。
追加ターンを連打するために
パイオニアの追加ターンは追放されてしまうので再利用は困難だし、枚数も少ない。

デッキをたくさん掘る
追加ターン連打を考えた時に、まず必要なことはカードを沢山引く方法。
せっかく買ったのに通常EDHでは出番が無くて余らせている《偉大なる統一者、アトラクサ》が最適だった。

明滅、コピー、バウンス、《機械の母、エリシュ・ノーン》を併用してライブラリーを10枚、20枚、30枚と見ることで、高い確率で追加ターンを見つけに行くことがこのデッキの狙い。
《アトラクサ》を再利用すると、どんどんライブラリーが薄くなっていくので、《運命のきずな》を再度引く確率が上がっていく。
連続でターンを得る工夫
バトルの裏面
《ヴリンへの侵攻》《アルケヴィオスへの侵攻》は追加ターンをコピーするのでソリティア度が上がる。
《アトラクサ》のアタックで簡単に裏返すことが出来る。

《出現の根本原理》

《アトラクサ》着地してターンを返さないと決められないと思われるかもしれないが、《出現の根本原理》から追加ターン2枚を使用することで《アトラクサ》を場に出す隙を消すことが可能。
《時間への侵入》は後半に低コストで唱えられる可能性があり、次で話すが追加ターン呪文の中でも《カーンの経時隔離》は残しておきたい。
そのため定型の組み合わせは《運命のきずな》《アールンドの天啓》《水の帳の分離》《二重視》の4枚から3枚を選ぶ。
《カーンの経時隔離》

《アルケヴィオスへの侵攻》《願い爪のタリスマン》をバウンスすることで、もう一回サーチが出来る。
《願い爪のタリスマン》は《時を解す者、テフェリー》で再利用可能だし、追加ターン連打しているうちに忠誠度が溜まってもう一回バウンス出来るようになる。
特に《願い爪のタリスマン》→《アルケヴィオスへの侵攻》→殴って裏返す→《カーンの経時隔離》コピーで2枚とも回収の流れは、更に2枚の追加ターンをサーチ&コピーできるため少なくとも6ターン行動できる。
《願い爪のタリスマン》のコントロール変更効果は、そのプレイヤーを敗北させれば終わる=自分の元に返ってくるので、《アトラクサ》で殴り倒せば8ターン、10ターンと動ける。
《出現の根本原理》が残っていれば、もっと動ける。
マナは必要だが《願い爪のタリスマン》から始まる1枚コンボである。
もちろん使えるマナ次第では《願い爪のタリスマン》→《カーンの経時隔離》もありえるし、《アルケヴィオスへの侵攻》→《カーンの経時隔離》も良く行う。
πEDHマナ加速の特徴とこのデッキの工夫
πEDHの環境のマナ加速はとても貧弱である。
1マナクリは《エルフの神秘家》《ラノワールのエルフ》《死儀礼のシャーマン》《金のガチョウ》《樹上の草食獣》もしくは《バネ葉の太鼓》の亜種のみ。

《金のガチョウ》は継続的な加速でないし、《樹上の草食獣》は手札の土地がすぐ切れてしまうため、軽くてアドが取れるカードが多くないとキツい。
2マナ以下のアンタップインで1マナ出るアーティファクトは《秘儀の印鑑》《アイレンクラッグ》しかない。

軽い統率者なら《モックス・アンバー》もあるが、《アトラクサ》には向かない。
土地に付けるオーラの加速は、2マナ以下では《狼柳の安息所》のみ。

《バネ葉の太鼓》や同じ能力を持った1マナクリーチャーはいるが、統率者が軽くないと、そしてタップする必要がない者でないと、序盤の加速には使用しにくい。

緑があるだけマシだが、2マナで唱えて1マナしか出ないマナクリを真面目に使う環境である。
更に軽いチューターがないので、しっかりと引くためには枚数を増やす必要があり、重複しすぎた時に弱い問題がある。
マナ加速については意識した点は主に以下の通り
①4ターン目に7マナ到達
②シナジーによる爆発力
③クリーチャー数を増やしすぎない
順に説明する。
①4ターン目に7マナ到達
除去やドローを挟んで遅れることはゲーム展開上ありえるが、構築の時点でスムーズに《アトラクサ》を出せる体制は欲しい。
1~3ターン目で1マナずつ加速して土地を順当に置ければ7マナだが、1マナ加速が限定的なので難しい。
実際には、1ターン目にフェッチランドからトライオーム、2ターン目に加速+1、3ターン目に加速+2が一番狙いやすいパターン。
しかし3-4マナで2マナ加速するカードは限られる上、沢山積むとやや重いのでダブったときにキツい。
《ガイアの眼、クヴェナ》のようなクリーチャー限定のマナ加速は加速効率は良いが、キーカードの追加ターンや《出現の根本原理》に使えない点がネック。
更にマナ加速だけしていると土地が止まるリスクもあり、土地が止まると加速にならない。
38枚の土地を採用して4ターン目、すなわちカードを11枚引いて、土地が4枚以上あるのは68%しかない。
実際には初手の土地が少ないとマリガンするので、もう少し高い確率で並べられるが、それでも4枚目の土地を置けないリスクは存在する。
そこでドローカードを挟んで、除去やカウンターを使用しつつ5ターン目の《アトラクサ》を狙うことが現実的だが、もう一つ、ドローしつつも早出しの可能性を上げるために、後述の爆発力を生むシナジーを意識した。
②シナジーによる爆発力
死にやすいクリーチャーを使うのに、2マナで1マナ加速では物足りない。
《前兆の追跡者》《旅するサテュロス》は《睡蓮の原野》《市場の祝祭》など複数マナが出る土地と揃うと一気に加速する。

アンタップするカードが《キオーラの追跡者》《日没を遅らせる者、テフェリー》ならば、土地以外の複数マナが出るカードともシナジーする。
《睡蓮の原野》は単品で仕事が無くテンポロスになるだけだが、《アトラクサ》が止まる《厳しい試験官》を逆に利用できるし、アンタップシナジーと噛み合った時の強さはクセになる。
実際の所《アトラクサ》で10枚めくって複数マナを生む手段+アンタップ手段を揃えることも多い。
というか、早い段階で揃えると妨害で狙われる。
例えば《睡蓮の原野》+《物語の終わり》は、実質的に3マナで2枚のカードを使って2マナ加速するので、平凡な動きだが、一見して危なく見えるのでカウンターをあてられる。
ここでカウンターを使われるのは色々と渋い。
《アトラクサ》展開後もソリティアの成功率を上げるためにはマナは増やす必要があり、上述の通り《願い爪のタリスマン》《アルケヴィオスへの侵攻》から《カーンの経時隔離》を使いたいので、マナを伸ばす意義はある。
③クリーチャー数は増やしすぎない
πEDHは無限コンボが重く、一方でクリーチャーのカードパワーは高い。
クリーチャー除去は全体的に厚く採用され、リセット呪文が多用され、クリーチャーのマナ加速はその点で難がある。
そもそも《アトラクサ》の能力的にも特定のカードタイプばかり増やしたくない。
代替手段が少ない2マナ域はクリーチャー主体に、その他は除去されにくい土地加速をなるべく増やして、アーティファクト、エンチャントと加速手段は分散した。
中コスト帯の息継ぎのドロー
《アトラクサ》の7マナまで、常にスムーズに土地が止まらずにマナ加速し続けることは難しい上に、《アトラクサ》に依存しすぎるとマナ加速の妨害や《アトラクサ》カウンターで詰むので中コスト帯のドローは欲しい。
これは通常EDHでの緑単に通じるものがある。
《ギランラ》《東の樹の木霊》では、初手から6マナかそれ以上までマナを伸ばすことに不安があり、特に妨害されると厳しい。
統率者領域の《ギランラ》によるアド+1のマナ加速や《調和》《気前の良い贔屓筋》などのドローを使用し安定化させた。
しかし中コスト帯のドローは、高コストのカードが使えるようになると要らなくなる。
《威厳の魔力》で6枚ドローとか、《ガイアの揺籃の地》で6マナ出せるようになると《調和》のマナ効率は悪く、使う必要がなくなるようなもの。実質的な死に札。
しかし《東の樹の木霊》では、《気前の良い贔屓筋》《数多の声》などパーマネントによるドローを使うことで、後半はコストを踏み倒してチェインコンボに貢献し、役割を与えた。
話を戻すと《アトラクサ》を考える上でも大事な点は
①事故っても使いやすい4マナ以下のドロー
②後半のチェインコンボにも貢献
が理想。
上述の4枚目の土地が置けない問題を考えると、1-2マナ域で一つマナ加速を挟んだとして4マナ以下でのドローだと安心。
後半のチェインコンボというのは、このデッキでは追加ターンループである。
有力なカードを幾つか挙げると、

《ウィザード・クラス》は手札上限の無制限が《アトラクサ》と相性が良く、ドローが要らない状況でも1マナで設置できるのはありがたい。

《ヴリンへの侵攻》は裏返ると追加ターンをコピーできるので更なるチェインコンボに貢献。
バトルはカードタイプを散らすのにも有効。
《ヴリンへの侵攻》はこのデッキでの理想的なカードの一つ。
πEDHでカウンターは不要なのか?
自分より先に始めていた人が、πEDHで《唱え損ね》は弱いも言っていたが、実際には軽量カウンターは無いと死ぬ。
このデッキの負け筋は
①序盤のマナ加速を妨害されて事故ること
②最初の《アトラクサ》を打ち消されること
③自分より早くコンボや大技を決められること
これら全てに対応できるカウンターは超重要。
特に《アトラクサ》へのカウンターはまずい。
相手に構えられているとフルタップでは《アトラクサ》を出せない。
πEDHのカウンターは全体的には弱いが通常のEDHでも通用するレベルのものはあり、《アトラクサ》を唱えた後の残りマナが少ない状況も見据えて1マナカウンターを中心に採用をした。

カウンター対策は先置き出来る《時を解す者、テフェリー》《急嵐のトリクス》も大事。
逆に《夏の帳》は、追加で構えるマナが必要なってしまうし、どうせなら相手の《運命のきずな》を消せる1マナカウンターを優先したいと思って入れていない(今のところは)。
カウンターを積み過ぎてダブると、最悪マナ加速やドローが足りず7マナに届かず詰んでしまう恐れがあるので、ほどほどの採用としている。
通常のEDHの《ティムナ》みたいに序盤からドロー出来るわけではないので、展開に使えないカードが初手に集まると何も出来なくなる。
個別のカード解説
これまでにあまり解説できなかったカードの中で、いくつかピックアップして補足する。
《運命のきずな》

キーカードであり最強カード。
相手の妨害のやり取りを見てから、このカードで割り込んで勝つパターンは、通常EDHでの《最後の賭け》に似ている。
7マナ構えている青は注意して。
通常EDHと違うのは、フルタップの人からは妨害は飛んでこないということ。
πEDHにはピッチカウンターは無いため、相手のマナが寝たら絶大なチャンスである。
《道を開けよ》

《アトラクサ》の4ターン目キャストに貢献する4マナで2マナ加速するカードであり、除去に強い土地の加速。
土地の加速はパイオニアではほとんどが基本土地のサーチになるので、ライブラリーの基本土地の枯渇の問題がある。
多色デッキに採用できる基本土地にも限りがあるし…
《成長のらせん》《連携探索》と違って確定で土地を置けるのが強い。
《セレスタス》《完全化の杖》
この環境のマナアーティファクトは軽量のモノはとても弱く、アーティファクト除去は薄いため場持ちが良い。
汎用的なオプションが付いているこの2枚は序盤を良く支えてくれる。
πEDHプレイしてみての感想
通常EDHと負けず劣らずプレイングはシビアと思う。
通常EDHは資産的にもプレイ難度的にも敷居が高いが、パイオニアなら“ほんわか”しているからパーティゲームに向いているとの話だった。
確かに資産的なハードルは低く、マナ加速が貧弱なので自然とゲームは長引き、初心者が何も出来ずに死ぬゲームはほとんど無いように思う。
しかし構築もプレイングも案外難しい。
貧弱なマナ加速では《アトラクサ》のような“早いコンボ”に蹂躙されてしまう(パイオニアEDHで4ターン目《アトラクサ》5ターン目にソリティア開始で勝ちはかなり早い)。
ちなみにこの場合、《アトラクサ》除去が最適解なのだが、慣れていないと「除去しても再登場でアドを取られるし…」と躊躇うだろう。
《アトラクサ》を使い込んだものとして言うが、執拗に除去し続けるのが正解。
《アトラクサ》がいなければ追加ターン連打しても勝ちに繋がらない。
例えばプレイング面では全体除去も全員被害を受けるから平等、ではない。
クリーチャーを並べて殴るしかないデッキは勝ち筋を失う一方で、手札でコンボを揃えて仕掛けるデッキは被害が少なく相対的に得をする。
ドローが沢山あるデッキはリソースを回復しやすく、他の相手の手札がスカスカなので妨害を受けること無く勝ちやすくなる。
現在見えている情報の均衡だけでなく、自分や対戦相手のデッキの将来的な展開を予測しながら妨害をうたなければならない点が、多人数戦での難しさ。
これは通常EDHでも同様だが、πEDHでは難しくなる理由もある。
即死コンボが弱く、結構な頻度でライフをゼロにして勝つために、勝利までに時間が掛かる。
誰から殴るか考えた時に、見えている脅威があるから、マナが伸びているから、黒だからライフを使いそうだから殴ろう!という考えは実行可能かどうか良く考えるべき。
数ターンかけて殴っているうちに盤面の脅威は入れ替わっていたり、手札に温存するタイプのデッキに良いようにひっくり返される。
だから対戦相手3人が2ターン後、3ターン後に何をしてくるのか考えた上で殴っていかないと、今の盤面だけ見てあっちを殴って、こっちを殴ってと後手後手に回り有効な攻撃にならない。
カウンターを構えている青のライフを不必要に追い詰めて、勝ちに行きたいプレイヤーがちょっと殴ってコンボが決まるのは避けたい展開。
抑止力になっていたプレイヤーの妨害を吐き出させたエンド時に、待ってました!とばかりに《運命のきずな》で割り込まれて負けるのである。
現状はコンボと言えば追加ターン連打が最適解の一つと思う理由でもあり、やはり手札で揃えるデッキは仕掛けるタイミングを調整しやすく、盤面に脅威が見えないため特に慣れていないプレイヤーに攻められにくい利点がある。
これからパイオニアEDHを始める人は、まずは《アトラクサ》に勝てるデッキを考えて欲しい。
色々と示唆に富むので。
まとめと今後の展望
πEDHの《アトラクサ》の紹介でした。
追加ターン連打から殴り勝ちはかなり良い出来だと思っているが、青相手に《アトラクサ》を着地させられるかどうか、《アトラクサ》を唱える時点での攻防の練り込みは課題。
ではまた。
パイオニアEDHの環境の考察はこちら。
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